空を飛ぶパラソル

2012.02.29
空を飛ぶパラソル作:夢野久作

 夢野久作は昭和初期の小説家だ。作風は、怪奇的、幻想的。特に代表作である『ドグラ・マグラ』は難解で、日本三大奇書に数えられる。
 『空を飛ぶパラソル』は、それに比べると、非常に明快な短編だ。主人公は九州の地方紙の新聞記者。夏のネタ枯れ時期に、外出先で思わぬスクープをものにする。
 田んぼの中を通る列車の線路に通じる畦道を、盛装の婦人がパラソルを片手に、危なっかしく歩いている。その描写が秀逸だ。
「綱渡りをするように、ユラユラと踊りながら急いで行くと、オールバックの下から見える、白い首すじと手足とが、逆光線を反射しながら、しなやかに伸びたり縮んだりする。其の都度に、華やかな洋傘の尖端が、大きい、小さい円や弧を、空に描いて行くのであった」。

 周囲では、田植笠をかぶった農夫たちが手を止めて見とれている。貴婦人と田んぼ、笠とパラソル。見事な対比だ。
 だが、婦人は線路の脇にパラソルを開いたまま置き、下駄を脱ぎ揃え、その上に手持ちのバッグを静かに載せる。そこに轟音を上げて列車が迫る。新聞記者は嫌な予感を覚えるが、同時に事件への期待感が頭をよぎる。
 パラソルの貴婦人は一体誰なのか。新聞記者の領分を超えて事件に深入りし、謎を解き明かす展開は実にスリリングだ。戦前のミステリーを集めた『探偵小説の風景』(光文社)に収録されているほか、ネットの「青空文庫」でも無料で読める。
話の先が気になる方はどうぞ。

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