ちいさなきいろいかさ

2006.06.01
「ちいさなきいろいかさ」作・森 比佐志 絵・西巻茅子
(金の星社・1971年2月刊)

 初版発行から106刷という記録的な重版を誇る絵本のロングセラー。シナリオが日本児童文学者協会名誉会長の森比佐志、イラストが人気絵本作家の西巻茅子というベストコンビによる作品は、時を越えて子供心に夢を与え続けてきた。同作品は、第18回サンケイ児童出版文化賞受賞、第4回世界絵本原画展招待作品という由緒正しい肩書きも併せ持つ。

 物語は主人公のなっちゃんが母親に黄色い傘を買ってもらうところから始まる。早く雨が降ることを期待していた折にタイミングよくポツポツと雨粒が。早速傘を開くと道端でバッタリとうさぎやリスとご対面。心優しいなっちゃんは小さな動物たちを傘に招き入れる。さらにダックスフンドやバクの親子が立て続けに登場。すると満員状態の傘が大きくなり、新顔の動物も仲間に加われる。さらに背の高いキリンが通りかかる。これはさすがにムリかと思いきや、傘の中棒がスルスルと伸び無事入ることがかなう。

 そして、物語は最大の見せ場に。高木に行く手を阻まれ立ち往生する一行。しかし、知恵を絞りキリンの背中に乗ったり、胴体の下に入り、見事に難関を切り抜ける。この場面は見開き2ページを縦に使って描き、高さをわかりやすく表現している。

 やがて雨はやみ、動物たちともお別れ。なっちゃんは家に着き、待っていたお母さんに語り始める。「あのね あのね いいことあったの」と。

 保育園に所蔵される絵本の定番であり、現役の保育士によると、動物を傘に入れてあげる主人公の優しさ、大きくなったり長くなる不思議な傘、見せ場で絵本が縦になる独自の演出などに、園児は深い関心を示すそうだ。最後の主人公の台詞の後に「なにがあったの?」と実際に子どもに問いかけることで、この物語をどのように理解しているかを自然な流れで知ることもできる。こういった作り手の意図的な工夫や仕掛けも、この絵本の人気が衰えない理由のひとつに違いない。

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