かさもって おむかえ

2005.10.01
「かさもって おむかえ」作・征矢清/絵・長新太
(福音館書店・1969年刊)

 今も昔も子供から絶大な人気を誇り、大人の熱狂的なファンも抱える絵本作家・長新太が傘を題材に描いた、ユーモラスでありどこか懐かしさを感じさせる絵本。残念ながら、長新太は今年6月に77歳で亡くなったが、文芸春秋漫画賞と国際アンデルセン賞を受賞した「おしゃべりなたまごやき」や絵本にっぽん賞大賞を受賞した「キャベツくん」など多くのユニークで子供の想像力を刺激する作品を残した。本作品でも作家・征矢清とタッグを組み、そうした作品群に負けず劣らず、独特な「長新太ワールド」を余すところなく展開している。

 主人公は「かおる」という小さな女の子。夕方になり突然雨が降り出したので、大人用の傘を持って父親を駅まで迎えに行くことに。口に「ドロップ」をひとつ放り込み、「あめふりざんざんぶり かさもっておむかえ……」という「あめふりのうた」を口ずさみながら雨の中を歩いていく。

 駅に着いたかおるは、出迎えの人が溢れるなか父親の姿を探すが、待てど暮らせど現れない。外はすっかり暗くなり、いつしかかおるはひとりぼっちに。その不安や心細さが手に取るように伝わり、読者もかおるとともに父親の到着を待ち焦がれるようになる。

 しかし、ここで現れるのは父親ではなく、何とオレンジ色の一匹の猫。しかもこの猫、言葉を話し、かおるに電車に乗って父親の乗換駅まで迎えに行くように促す。

 それに従いかおるが電車に乗り込むと、今度はそこが今はやりの女性専用車両ならぬ「動物専用車両」。クマやカバ、ゾウ、シマウマが座席に腰掛けている。もはや、奇想天外、予測不能な長新太ワールド全開である。

 だが、そこでかおるは動物たちとおしゃべりするわけでも戯れるわけでもなく、ただひたすら父親と会うことを願い、押し黙ったまま座っている。実にけなげ。そして、乗換駅に着き父親を見つけ、かおるの目から涙がホロリ。それを拭う父親——。小さな感動が胸を包み込む。

 父親の傘を持って駅までお迎え。飴、キャンディーではなく「ドロップ」という言葉の響き、さらに、父親とやっと会えたときの喜び。古きよき時代の日本あるいは読者の子供時代を彷彿させるノスタルジックな世界が随所に散りばめられ、子供に読み聞かせている大人もいつしか童心に帰っていくことができる一冊。

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