ミフジ洋傘 寒河江真潮さん

2012.03.29

阿佐ヶ谷駅南口のアーケード商店街を数分進むと、左手に「ミフジ洋傘」が見えてきます。店舗の正面に傘の大きなオブジェ。店頭から奥にズラリと並ぶ傘の数々。地元民に愛される町の傘屋さんです。切り盛りするのは、2代目店主の寒河江真潮さん。町の傘屋さんならではの心意気、売れるアイデアを聞いてみました。
 

Q.まずはお店の紹介をお願いします。
A. 私の父、寒河江忠雄が昭和26年に開業した傘屋です。父は起業家で、他にもバッグ屋や自動車整備販売店なども経営していました。私は大学卒業後に外資系メーカーに勤め、傘屋を継ぐつもりは全くなかった。でも、父に頼まれ、自分の代で店を閉めること、経営方針に口を出さないことを条件に、昭和56年に後継ぎとなりました。

Q.どのような方針で商売をされてきましたか?
A. 町の傘屋に買いに来るのは、近所の主婦など女性がメイン。婦人傘、紳士傘、キッズ傘でも、女性ウケするものでないと絶対に売れない。だから、どんな傘でも女性の立場で考えて仕入れるようにしました。また、近所の方にプレゼント用で買っていただけるように、他店にはないものを置くようにもした。良質な骨を使ったトップレスの折りたたみ傘や、当時人気だったワッシャーナイロン(シワ加工されたナイロン生地)を使った傘などです。狙いは当たり、多くの方がプレゼントで使ってくださいましたね。さらに贈り先の方から、自分の友人にも贈りたいと注文が来るなど、口コミが拡大。この販売戦略で、地場以外にも市場を広げることができました。

Q.修理にも力を入れているそうですね。
A. インターネットや口コミで店のことを知って、大宮や千葉など遠方からわざわざ修理する傘を持ってくる方もいらっしゃいます。多いときで月に100本近くになります。修理が縁で、リピーターとなり、継続して傘を買っていただくケースも多いですね。露先を付け替えたり、折れた受骨、親骨、中棒を直したり、さらに生地の張り替えにも対応します。できる限り、元の姿に復元できるように、あらゆる部品を揃えています。

Q.修理の技術はどこで習得されたのですか?
A. 大学生のときに問屋さんで習いました。当時の傘屋の店長が独立してしまい、手伝う必要があったからです。ただ、習うといっても、相手は昔の職人だから、懇切丁寧に教えてくれるわけじゃない。「技術は見て盗め」です。指先に血をにじませながら、見よう見まねで、必死に覚えましたね。時代は昭和40年代。傘は直して使うのが当たり前だったので、修理はそれこそ月に100本どころではなく、今とは比べ物にならないほど多かった。だから、数をこなすうちに技術は自然と身に付きました。

Q.最近は再び直して使う人が増えているようです。
A. そうですね。また、ここ1年くらい、今まで傘は使い捨ての感覚だったが、そろそろちゃんとした傘を持ちたいという20代、30代の方が増えているように思えます。当店にも若い方がどんな傘を買えばいいかよく相談に訪れます。

Q.傘へのニーズも時代とともに変化していますね。
A. その意味では、お客様のニーズにもっと耳を傾けてもいいのかもしれません。傘の大きさは、婦人物は60㎝が基本ですが、65㎝の傘がほしいという声もよく聞きます。社会に出て男性同様に働く女性が増え、雨の日に荷物や大切な書類が濡れないようなサイズの傘が必要になっていることも背景にあるようです。当店では、紳士物ではあるが、女性が使っても違和感がないものを薦めています。購入される方は結構多いですよ。


当店で人気の傘

当店の人気傘
一枚張りのイラスト傘、ブランド傘、寒竹の手元を使った高級傘などが売れ筋。



アンブレラ・マスター 傘への想い

素敵と思うかどうかを大切に

商品は自分が納得したものだけを扱っています。そうでないと、お客様に自信を持って商品を薦められないでしょう。結局、その商品に対する自分の想いを、どれだけお客様に伝えられるかで、売れるか売れないかは決まってくる。伝えられなければ、お客様は付いてこない。当たり前のことです。
ディスプレイでは、店の入口付近に最も値段が高い高級傘を広げ、奥に行くにしたがって価格帯が下がっていくような構成にしています。単純に高級傘のほうが見栄えが良く、客寄せになるからです。それに、お客様には高級なものから見せるのが筋です。安いものを前面に出すのは、失礼なことだと思います。
また、接客ではブランドだからと薦めることはしません。その方がパッと見て素敵と思うかどうかを大切にしています。だから特に説明せず、黙って見せます。素敵だと思って買うことを決め、タグを見たらたまたまブランド物だった――。それが傘の良い選び方だと、私は思っています。

女王陛下からいただいた傘

修理では様々なお客様が、思い入れのある傘を持ちこまれます。特に印象に残っているのは数年前に訪れたミセスの方で、持ってきたのはボロボロの傘でした。素性を訪ねると、ご主人がイギリスの方で、その実家に行ったとき、納屋で見つけたとのこと。しかも、ただの傘ではなく、ご主人の祖母がイギリス王室に勤めていたとき、女王陛下からいただいたものらしいのです。
ただ、ご主人に直して使ったらと言われたものの、どの店に持ち込んでも、直せないと断られてきた。そこで、藁をもすがる思いで、当店に来られました。 「飾りたいのか、使いたいのか」と聞くと、使いたいと言います。費用はいくらかかるかわからないがいいかと聞くと、構わないと言います。
結局熱意に負けて引き受け、全部ばらして、ろくろなどは自分で削って直し、使える骨を活かしながら、無地の生地に張り替えました。お客様は嬉しそうでしたよ。困難な修理でも引き受けるのは、そんな嬉しそうな顔が見たいからかもしれません。


店舗紹介

ミフジ洋傘

住所:
東京都杉並区阿佐谷南1-36-13
TEL:
03-3311-3572(代表)
アクセス:
JR阿佐ヶ谷駅南口徒歩3分
概要
昭和26年開業。阿佐ヶ谷駅南口の阿佐ヶ谷パールセンター内に店舗を構える。ブランド傘やオリジナル傘などが揃う。
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※記事の内容は2012年3月現在のものです。

 

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