かさかしてあげる

2007.03.01
「かさかしてあげる」作・松野正子 絵・原田治
(福音館書店・1985年刊)

 福島生まれの絵本作家、小出保子氏が描く女の子や動物たちはどこかノスタルジックな雰囲気。子供の好奇心をあおるストーリー展開も絶品である。

 物語は表紙から始まる。主人公の女の子が、降り始めた雨粒を小さい手に受ける。本降りになり、木の下で雨宿りしながら困り顔の女の子。そこへ、アリが歩み出て、「かさかしてあげる」と、クローバーの葉を用意する。でも、ちょっと小さ過ぎる。その後、カエルがゼラニウムを、ウサギがにんじんを差し出すが、どれも合わない。最後はクマが現れ、ふきの葉を手渡されるが、これは大きくて重過ぎ。結局飼い犬が女の子の傘を持ってきて一件落着。女の子も動物も自分にピッタリの傘を差し満足気に雨中を大行進して話は幕を引く。

 次々と出てくる動物たちと奇想天外なそれぞれの傘。テンポの良さにグイグイと引き込まれる。さらに、各頁のさりげない仕掛けにも注目したい。例えばアリが出てくる絵の背後には他の動物が影絵のように潜む。次に何かが起こりそうという期待感が自然と膨らむわけだ。また最終頁には雨に打たれるスズメが登場。感化された子供には「今度は自分が傘を貸してあげたい」という気持ちが芽生える。

 困っている人に手を差し伸べる。傘を通じてそんな親切心が育まれるところも、この絵本の隠された魅力といえるだろう。

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