億万長者だけが知っている雨の日の傘の借り方-入門・海外個人投資

2003.10.10
「億万長者だけが知っている雨の日の傘の借り方-入門・海外個人投資」オーレンス・ロース 大楽祐二 訳
(講談社・2003年9月刊) 

 「心の中が雨模様」「梅雨のような鬱陶しい気分」…。その人が置かれた状況や心情などを語るとき、様々な喩えに使われるのが雨。イスラエル生まれの著者は、日本経済の現在の様子を、「灰色の雲がたれ込めた空」または「小雨」と喩えている。これでもまだひどい降り方ではないらしい。が、もちろんこのまま放っておけば、もっとこっぴどいどしゃぶりになるそうだ。

 経済がそんな状態になってから慌てるのではなく、どこにいてもどんな状況でも雨をしのげるように傘を借りる術を心得ておくこと。著者はまだ小雨の状態の日本に住む人々にそう呼びかけている。

 著者によると、年金制度に危機感があり、700兆円もの借金を抱えている日本のような国は、いずれ経済を建て直すために国民を切り捨てるか、衰退の道を歩むかの二者択一を迫られるという。その中で我々は国境を越えてよい制度を探し出し、国家の運命と自分の運命を切り離すことが重要であると述べる。具体的方法がタイトルにもある海外への分散投資であり、本書ではその哲学と実践的方法が書かれている。

 本書の中で傘に喩えられているのは、ヨーロッパに長い間根付いている資産哲学である。ヨーロッパには各国の領土が入り乱れた、長い紛争の歴史があった。ヨーロッパに住む人にとっては、国家や政府から自分の資産を守ることは、人生の中では当たり前のように直面する課題だった。それはまさにいつ降ってもおかしくない雨のようなものだったかもしれない。

 雨が降って困るのは、ただ濡れてしまうからだけでない。これから人と会う予定なのにひどい格好で行かなければならない。体が冷えて風邪を引いてしまうかもしれない。想像してみると様々な不安が連鎖的に浮かんでくる。しかし、傘が一本あればそんな不安も一掃される。ごく身近な道具でありながら、それを持っているかどうかで心のゆとりが大きく違ってくるもの。それが傘であり、著者はヨーロッパの資産哲学も同じものだと言っているのだろう。

 こうした哲学を持つ人は、資産に対する思いが人一倍強いが、大金によって人生をすり減らすようなことはない。それはお金を儲けた後の生き方をしっかりと考えてるからだという。そして国家に左右されない資産とそれを活かす生き方ができる人を、著者は「真に自由な生き方をしている人」と呼んでいる。

 雨の日に傘を持たず雨宿りをしながら、傘を差してさっそうと行きかう人たちを眺める。そんな場面を想像すると、雨の日に傘の借り方を知るヨーロッパのお金持ちたちが、国家の運命などに左右されずに自由に生きていることがよくわかるのではないだろうか。

 

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