日傘こころ模様

2008.10.01
「日傘こころ模様」小堺正記
(小学館プロダクション・2008年7月刊)

 2006年9月に放送されたNHKのドキュメンタリー番組「にんげんドキュメント・日傘こころ模様」をもとに、そのチーフプロデューサーを務めた小堺正記氏が、再取材し一冊の本にまとめたものである。

 主人公は、東京の三鷹駅前で「ハマヲ洋傘店」を営む鎌田智子さんだ。番組は、古い着物を材料に日傘作りに没頭する鎌田さんの仕事ぶりと、その着物を送り、傘作りを依頼した全国各地の家族の物語を描いたもの。本では、鎌田さんの人生をより深く掘り下げ、家族の物語についても厚みを増して丁寧に伝える。

 本編では、鎌田さんの生い立ち、戦後に住みなれた満州から引き揚げ、本土で再出発を切ったときのこと、そして、傘の道に入る経緯、古い着物を日傘として甦らせることに情熱を傾けるようになったきっかけなど、1人の女性傘職人の生き様が、精緻かつ表現豊かな文章で書かれている。

 さらに、各章の間には、古い着物の持ち主で傘作りの依頼主でもある、全国の様々な家族の物語が、コラム化されている。この構成はまるで、軸になるストーリーに、様々なエピソードが織り交ぜられる、秀逸なドキュメンタリー番組のよう。流れるように読むことができ、最後にはほのかな感動が残る。

 また、その時々の洋傘作りの様子や市場状況も書かれており、戦後日本の洋傘史を辿る意味でも有意義な内容だ。
鎌田さんの手によってつながるそれぞれの想いと日傘。その心模様を存分に味わいたい。

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