ぞろぞろ

2008.06.01
「ぞろぞろ」 文:斉藤洋 絵:高畠純
(あかね書房・2006年9月刊)

 「ぞろぞろ」とは興味をそそるタイトルだ。元々は上方落語の演題である。それを、亜細亜大学教授で講談社児童文芸新人賞など数々の受賞歴を持つ斉藤洋氏と、東海女子大学教授で、日本絵本賞など、こちらも受賞歴多数の高畠純氏のコンビが、絵本向けにアレンジした。落語ならではのテンポのいい内容と、「人間の話なのになぜ絵が動物?」と思いつつも、妙に馴染む独特なワールドが秀逸だ。

 ストーリー展開は「こぶとりじいさん」の話に似ている。林の奥にあるご利益のあるといわれている石。昔は参拝客で賑わいを見せたが、今は廃れ、全く人が来ない日もある。近くのみやげそしてこういった。「傘はあるかい?」と。店の主人は天井に付けたフックからぶら下がった売れ残りの傘を取り、客に差し出す。すると、不思議なことに、今傘を取ったばかりのフックに、また傘がかかっている。主人がその傘を取ると、また傘が生えてくる。ぞろぞろと生えてくる。それは「奇跡の傘」と評判になり、店はたたむどころか、大繁盛した。

 それを見ていた近所の床屋の主人。自分もあやかろうと石を拝み、店に戻ると客の長蛇の列。嬉々とする主人。しかし……。

 最後は落語らしく、絶妙なオチがある。元の落語では物屋は店を閉めようと決意し、最後に今までお礼も兼ねて石を拝みに行った。

 その日は雨となった。店には珍しく客が訪れる。生えてくるのは草履だが、作者はそれを傘に置き換え、見事に話を構成した。

 絵本には、そのほか「ためし酒」、「船徳」という、落語をアレンジした2作品も収録されている。いずれも痛快な内容。梅雨空を笑いで過ごすのも悪くない。

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