三丁目の傘屋さん

2008.03.01
「三丁目の傘屋さん」 作:岡本小夜子 絵:篠崎三朗
(そうえん社・2007年6月刊)

 漆黒の空に輝く月が、雨降りの夜にもし傘を借りにきたら——。「三丁目の傘屋さん」では、そんなメルヘンな世界を描いている。作者は童話、詩、随筆などで多くの作品を発表している岡本小夜子。家の光童話賞優秀賞、アンデルセンメルヘン大賞入賞などの実績がある。また絵を担当する篠崎三朗は、これまでに現代童画会ニコン賞、高橋五山絵画賞などを受賞。いずれも絵本業界では高く評価されている実力派コンビによる秀作である。

 絵本を開くと、そこには昭和のノスタルジックな雰囲気が漂う、ある町の商店街が現れる。邦画「ALWAYS 三丁目の夕日」にも通じる古きよき時代の空気感が、大胆な筆触、カラフルな色使いで、情感たっぷりに描かれている。大人が見れば、子供時代にタイムスリップできる。そんな世界観が広がっている。

 その商店街の一角に傘屋がある。作業場では職人が夜遅くまで傘を作っている。そこに夜空からポツリと雨粒が落ちる。すると、今まで遠くで輝いていた月が、ゆっくりと地上に降りてきて職人に言うのである。「傘を一本、くださいな」と。職人が傘を差し出すと、月はそれを手にし、またもといた場所に戻っていく。

 翌日雨が上がると、傘屋の店裏に傘が返されていた。見上げると、そこには微笑んでいるように見える月が、浮かんでいたのである。

 突拍子もないおとぎ話も舞台が昭和の町並みだと、妙にしっくりくる。子供には自分の思い出とともに読み聞かせたい。

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