かさ

2005.03.01
「かさ」厚生省中央児童福祉審議会児童福祉文化奨励賞受賞
作・絵 太田大八
(文研出版・1975年2月20日刊)

 かつて庶民の娯楽だった「無声映画」ならぬ、「無言絵本」ともいえるのが、太田大八が30年前に世に送り出した「かさ」。初版から実に21刷を数えるロングセラー作品だ。

 主人公は小さな女の子。雨が降る中、大人用の傘を持って、父親を駅まで迎えに行くというストーリー。全編にわたり「無言」のため、読み手は絵を見ながら作者に代わって、セリフやナレーションを考えなければならない。最初は馴れないかもしれないが、自分なりの「言葉」を語り、ページを繰りながら物語を膨らませていく作業は思いのほか心が弾む。主人公の名前や性格なども自由自在に設定でき、作者と読み手によるいわば「共同作品」が展開できるのだ。

 しかもこの作品、一般的なカラフルな絵本とは正反対の墨一色の世界。その中で女の子が差す傘だけが朱色に染まっている。おかげで、傘を持っている主人公の存在が際立ち、強く印象に残る。周囲の配色を頭の中で思い描いてみるのも一興だろう。

 親が子に読んでもいいし、たまには子どもが読み手になってもいい。もちろん、子どもがひとりで想像の世界に浸るのも悪くない。一粒で何でも楽しめる「美味しい」作品をぜひ楽しんでほしい。  

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