かさをかしてあげたあひるさん

2010.06.01
かさをかしてあげたあひるさん文:村山籌子 絵:山口マオ
(福音館書店・2010年4月刊)

 戦前の童話作家である村山( 旧姓岡内)籌子が残した17篇の小品に、山口マオが木版画による味のある絵を添えた童話集。

 村山籌子は1903年生まれ。20〜 40年代に絵雑誌『子供之友』に童話や童謡、詩を発表するなど活躍し、24年にはその童話に挿絵を描いていた村山知義と結婚した。知義は画家、小説家、デザイナー、劇作家、演出家、建築家としてマルチな才能を発揮した前衛芸術家として有名だ。籌子はその後、病に冒されながらも、その思想ゆえに入出獄を繰り返す夫や同時期に投獄された仲間のプロレタリア文学者たちを支援。しかし、病は悪化し46年にその生涯を閉じた。

 一方の山口マオは絵本「わにわに」シリーズの絵でお馴染みの版画家。『わにわにのおふろ』で第1回アジア絵本原画ビエンナーレ佳作賞を受賞している(2002年)。本書は、その新旧の作家と画家が時空を超えてコラボレーションした異色の作品である。

 タイトルにもなっている一篇の小品「かさをかしてあげたあひるさん」は、ある雨の日、あひるさんの家に友達であるにわとりさんが傘を借りにくるところから話は始まる。あひるさんは貸してあげたいが、家には傘が1本しかなく、貸してしまうとお母さんが出かけられなくなる。困ったあひるさん。雨に濡れるにわとりさんがかわいそうで、あひるさんはとうとう泣き出してしまう。それを見たお母さんは、さてどうするのか…。

 巧みに擬人化された動物たちの織り成すストーリーは、読み手の心に違和感なくスッと入ってくる。そして、話のオチが実にシュール。その奇想天外な展開は子どもはもちろん、大人でも楽しめる。戦前に創作された話にもかかわらず、そのユニークな発想は決して古臭さくなく、むしろ新鮮な輝きを放っているのである。   

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